※ある読者から下記の趣旨のご質問が寄せられました。

他にも同種の疑問をお持ちの読者がおられるかと思いますので、編集者の回答をホームページに掲載させていただきます。

Aさんのご質問:

『中国のエニグマと見果てぬ夢』の表紙の絵が、ドン・キホーテに見えるのですが、なぜ、ドン・キホーテが中国に現れるのでしょうか?

どのような意図をもって、この絵を表紙にしたのでしょうか?

編集者の回答:

お問い合わせ、誠にありがとうございます。

 

ご指摘のとおり、表紙の絵は、ドン・キホーテです。

これは現実の場面ではなく、主人公・陳操主任警部の心象風景を描いたものです。

 

本書の中で、陳は、国家安全省の盛捜査官に対して、自分の現在の状況を次のように説明します。

「そうですね。『盲目の馬に乗って、闇夜を底知れぬ湖に向かっている盲目の男』というところです」(第21章、220頁)

 

この表現は、第26章(283頁)でも、陳がマドンナ役の漣萍との会話の中で口にします。

そして、彼女にあることを依頼します。その時の言葉は、次のようになっています。

「たとえ、僕のドン・キホーテ的な試みが、海底に音もなく沈んでいく岩のような結末になったとしても、必ず真実が明らかになるようにするためだ」(同、285頁)

 

この「岩」の表現は、陳がシーシュポスを引き合いに出す箇所、つまり、努力して山頂へ岩を運び上げ、そのたびに岩が転がり落ちるのを見守るしかない永久運動を続ける神話的人物を自分自身になぞらえる箇所と連動しています。(第9章、87頁)

 

この絵は、巨大で牢固とした中国の現体制に立ち向かう主人公の陳主任警部(=作者)のシニシズム(冷笑主義)的な側面を描いたものです。湖の向こうに見えるのは天安門です。

なお、このシニシズムについては「編集雑記」の中で、作者自身が説明している箇所が出てきますので、ご興味があれば、読んでみてください。(297頁)

 

こ絵は、本書のために画家の山口俊雄氏に依頼したもので、題名は特についていません。

あえていえば、

『盲目の白馬に乗って、闇夜を底知れぬ湖に向かっている盲目の騎士(ドン・キホーテ)』となるでしょうか?

(なお、絵の中の馬は漣萍、またはインターネットに熟達した中国の若者たち(ネチズン)と考えていただければよいのではないかと思います。)